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  実生新花と花の謎 その9  花模様と花色の源
         
                            相模原市 清水弘 

 古来より花菖蒲の花模様は千差万別にあり、‘脈入り’‘白筋’‘底ぼかし’‘覆輪’等々の呼び名で皆に親しまれている。これらの模様の出来方には何か秘密がないかとあれこれ思案したが、基本的には二つのパターンがあるようだ。以下は、雌しべを中心とした六英咲きの花を1枚の白色カンバスに例えて、紫色の絵具を用い、どのような筆使いで色模様ができるかを探ってみた。
【筋花パターン】
@ まず、雌しべのみ紫に着色する(例:潮入りの池)A続いて、目元と目元から弁先に向かって葉脈を塗って行く(例:港の風)Bさらに葉脈と葉脈との間も、うすく塗る(例:我が袖)C最後に弁ふちを残して完全着色する(例:江戸の粋)
筋花パターン@ 潮入りの池 筋花パターンA 港の風
筋花パターンB 我が袖 筋花パターンC 江戸の粋

  
【白筋パターン】
@まず、弁ふちのみ紫に着色する(例:雁の天路)A続いて弁ふちから弁元に向かって、葉脈と葉脈との間を塗って行く(例:潮の香)Bさらに目元まで塗って行く(例:扇沢)C最後に雌しべのみを残して完全着色する(例:山頭火)
 白筋パターン@ 雁の天路   白筋パターンA 潮の香
白筋パターンB 扇沢 白筋パターンC 山頭火
【単色】
筋花パターンの筆使いと白筋パターンの筆使いとを兼ね備えたもの。野生のノハナショブは大半がこの単色パターンだが、突然変異として筋花パターンと白筋パターンのものが生じて、今日ある栽培品種ももととなったと考えられる。

花色の源
 江戸時代の植木屋が見事な紅葉を出すために「秋の紅葉前に霧吹きで葉に砂糖水をかける」という秘伝がある。これは鮮やかな紅葉になるためには、その栄養となる糖分が多くあれば良いということを示している。花においても同様で、花色もその栄養源がないと発色しない。元来は「花弁において均一に発色しろ」という命令があるにもかかわらず、「その栄養源である糖分の偏り」が花弁に生じているため、花模様ができるのであろう。
 次回はこの筋花パターンと爪咲き・蓮華咲き等、弁ふちから内側に巻き込んでくる花型パターンとの関係を紐解くこととしよう。次々回は、砂子や絞りパターンについてである。