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色鮮やかに、そして華麗な花を咲かせる花菖蒲。その原種が「ノハナショウブ」。三重県明和町には、国の天然記念物に指定されているノハナショウブの群落があります。毎年、五月下旬から六月上旬になると、昔の面影を残しながらも優雅な紫紺の花が咲き誇り、訪れる観光客や愛好家の目を楽しませています。
ノハナショウブはアヤメ科に属し、日本各地に分布し、花の色はやや赤っぽい紫色で、酸性の土壌の日当たりの良い湿った草原や湿原に見られる多年草です。
高さは六十〜百二十センチ。外花被片は六〜七センチ、内花被片は直立しています。葉の長さは三十〜六十センチほどの線形で、太い中脈が目に付く。果実は三裂するさく果。和名・野花菖蒲(のはなしょうぶ)は野生の花菖蒲の意もあります。
明和町には、平安時代などの歴代天皇に代わって伊勢神宮の祭司を執り行った「斎王」の御所とその事務を取り扱った官人の役所後が残っております。
この斎王制度は、天武天皇の飛鳥時代から後醍醐天皇の南北朝時代にかけて、約六百六十年間、六十四代の長歳月にわたって守られてきました。斎王制度などで解明された百四十ヘクタールに及ぶ広大な面積は「斎宮跡」として昭和五十四年三月に国史跡の指定を受けました。
ノハナショウブの群落は、この斎宮の東野の笹笛川右岸にあり、昭和十一年十二月十六日に天然記念物に指定。その広さは約五百二十平方メートル。平成八年には群生地周辺の整備も完了し、群生地を含む約二千五百平方メートルの公園に約三千株ほどのノハナショウブが植えられています。平野に群生していることもたいへん珍しく、群生地としては、湿田といつも絶えない綺麗な水が必要条件です。
すでに江戸時代には、この湿地周辺に自生していたと言われ、古代には、花どきになると「紫の雲がたなびくように、非常に美しい眺めで、伊勢参宮客の目を引き、心をなごませた」と古記に記されているほどです。
「どんど」と呼ばれる取水口付近に咲いていたことから、地元では「どんど花」と呼び親しまれ、凛として咲く濃い紫色の花には気品が漂い、周辺の水田の緑とあいまって見事なコントラストを見せてくれます。
斎宮跡のシンボルゾーンとして親しまれる史跡公園。いつきのみや歴史体験館から斎王の森にかけて花菖蒲が続き、「歴史の道」への入り口となっており、近くにはノハナショウブが咲く一角があります。花菖蒲に比べ華やかさに欠けますが、初夏の風にそよぐ可憐で清楚に咲く姿は昔の面影を偲ばせてくれています。また、六月初旬に開かれる「斎王まつり」の群行にも彩りを添えてくれます。
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