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 ジャーマンアイリス、写真取材記
         
                           神奈川県横浜市 石井 G  

写真@
写真A
 
 私は、一瞬、息をのんでそこに立ちすくんでしまった。『背筋が凍り付いた、と、思った。』

 事務所で伊藤孝司社長はじめ皆さんに挨拶と、取材させていただく為の打ち合わせを済ませ、専務の伊藤仁敏氏に案内されて園内の小高い緩やかな丘を登り詰めた時のことである。

 眼前に広がる景観の素晴らしさと雄大さに圧倒されたのである。
 緑に輝く大地の向う正面に、未だ多くの雪渓を残しながら噴煙を上げている十勝岳を背景にして、例年よりも一週間遅れで咲き始めいたという一万株はあろうかと思われるジャーマンアイリスの花がその艶を競っている。(写真@)
 前方左に目を移すと、背の低い花畑の向こうには、更に多くの雪渓を残した大雪山系の峰峰が、少し淡く白く輝いている。(写真A)
足下の田圃は植え付けを終えたばかりの稲が、明るい緑の絨毯を敷き詰めたように広がっている。

 私が上富良野を訪れるのはこれが三度目であるが、このような眺望には初めて出会った。正に天界へ来たような錯覚を覚えた。といっても良いと思う。
ここ、かみふらのフラワーランドのジャーマンアイリス畑は、凡そ幅が十五メートル、長さ三百メートル位に渡って続き、更に、十メートル程の通路を挟んでもう一列と、計二列有り、それぞれ一本の花茎で3〜4個が既に開いている。
栽培されている品種は、六百十二種記録されているが、残念ながら、長い間に消滅したものもあり、厳密に品種管理がされているもの二百十種、数年毎の移植で混乱し、品種名が曖昧になったものが四百種余、前回の移植から三年目を迎えた今年は、一種平均九個の株が程良く繁殖し、それらの株が、ほぼ一斉に咲き始めたので、花の数凡そ三〜三・五万個、息をのむほどの見事さである。
観光ヘリコプター
トラクターバス
●フラワーランドかみふらの・・・
 ここでちょっとフラワーランドかみふらの、の概要について紹介しておこうと思う。

 上富良野は盆地である。夏は暑く冬寒い。隣接する旭川地方よりも、夏は1〜2度高く冬は逆に1〜2度低いことが多いそうだ。
 フラワーランドは、富良野盆地の北西側、緩い南斜面に位置し、北東方向に北海道の屋根、と、言われる大雪山系の山々、やや右寄り、東側に、今も噴煙を上げ続ける活火山の十勝岳連峰、南南西側にはこれも高山植物の宝庫といわれる芦別岳、といった名山群に囲まれ、五ヘクタール余の敷地内に、春から秋迄の間、常に、手入れの行き届いた幾種類かの花が、整然と咲き競っている。(写真上)
 また、園内にはシーズン中、トラクターを利用した散策バス(トラクターバス)がゆっくりっと巡り、(写真右)上空には、園内と富良野盆地を一望できるヘリコプターも運航されている。(写真右上)土産物などの売店や食堂などの施設もあり、ゲートの中へ入ると全体を見渡せる丘の上に、開園のの由緒や眺望の案内板、休憩所などがある。(写真上)
積雪期以外なら、いつ来ても楽しめる広々とした花の園である。

 今回『日本のアイリス世界のアイリス』(仮称)を出版するに当たり、ジャーマンアイリスの写真が不足しているということもあり、椎野理事長から百種以上の撮影希望が出された。偶然、私の学生時代からの親友である和田和彦氏や、その実弟の和田昭彦氏のお力添えも有り、フラワーランドかみふらの(伊藤孝司社長)より、写真撮影等取材に対する全面的なご協力を頂くことが出来た。
とは言うものの、フラワーランドの案内パンフレットでは見ていたが、どんな環境の中でどのような状態に栽培管理されているのか、今年の咲き具合や色合いは?、
重いカメラ機材をどのように運び込めるのか、撮影に際し、畑の中のどの位置まで立ち入られるのか、品種別による最良の見頃や特徴の出方は適期なのか、椎野理事長からは、八十〜百品種位の写真が欲しい、と、要望が出ていたが、こちらが欲しい品種の内、フラワーランドで栽培されている中に何本含まれているか?・・・等々
伊藤社長から電話では、社内に保存されている資料等も含め、自由な利用と取材をお許し頂いていたが、全くの未知数であった為、現地の様子を全く知らないままに、一発勝負での取材旅行となった。
準備するに当たり、6x9、6x4・.5、35ミリ判、デジカメなどの各機材と、発色の確認やテストを済ませたリバーサルフィルム各サイズ二十本づつ、計、約1000駒分を用意。
最適撮影は、日中の三〜四時間なので、百品種程の撮影には、悪天候の日も含めて十日程の日数を要する、と、考えて準備を整えていた。

 今こうして一斉に開花したジャーマンの花を見ていると、十日も掛けて撮影している状態ではない。
背筋を凍り付かせ、悠長に立ちすくんでいる時間が無いことは明白である。
色温度変換フィルターなども動員して、日中フルタイムでの撮影を行うことになった。
 途中、悪天候の日もあり、結果的には、六月十七日から二十九日迄の滞在となった。

取材の基地にさせて頂いたログハウス。
 偶然にも、上富良野町内に、学生時代からの親友、和田信彦氏の所有するログハウスが有り、ここから町なかを挟んで北西側五キロメートル位に位置するフラワーランドへ毎日通うことになった。このログハウスは、山から切り出して一年以上枯れさせた、直径が二十五センチ〜三十センチもある唐松を、殆ど、奥さんと二人の作業で五年懸かりで完成させたもの(写真右)で、豊かな木のぬくもりが、疲れた肉体を深く包み込んで、明日への精気をを与えてくれる。
 二階の窓からは、ある時は高く噴煙を上げ、(写真右下)朝焼け、夕焼けに輝く十勝岳の勇姿を間近に望むことが出来る。ハウスの前庭には、これもまた見事な花を咲かせるジャーマンアイリスが二箇所に亘り約七〜八百株植えられている。

花の写真を(下)
日本花菖蒲協会会員の方々の中には、私を含め、大方の方が、ジャーマンアイリスを間近に見る機会は少ないと思うので、紙面の許す範囲で、今回の取材で得られた写真を、ご覧に入れたいと思います。(写真・各品種毎のもの)
ジャーマンアイリスには、花菖蒲とは、また一味違った魅力もあると感じます。色や花形なども含め、各会員の方々の参考になれば幸いです。

 最後に、今回の取材に対し、何かとご支援をして頂いた、花菖蒲協会・椎野理事長殿を始め、誠文堂新光社編集部・宮田氏、宮園氏、ジャーマンアイリスの解説をしてくださった執筆者の荒木氏、現地で全面的な取材協力をして下さったフラワーランドかみふらのの伊藤社長以下社員の皆様方、半月以上に亘る取材に、基地としての場所を提供して下さった和田信彦氏及び、フラワーランドとの仲立ちをして頂いた信彦氏の実弟、昭彦氏に感謝の念を申し上げ、筆を置きたいと思います。
皆様、有り難う御座いました。

ブラウン・ラッソー 1981年ダイクスメダル アメジスト・フレーム 1963年ダイクスメダル
ダスキー・チャレンジャー 1992年ダイクスメダル
シナモン・ガールズ 1987年
品種名脇の「ダイクスメダル」とは、ジャーマンアイリスの改良初期の育種家であるW.R.D.Dykesの功績を記念して設けられた賞で、毎年アメリカのアイリス協会が定めた審査員の投票によって選ばれた園芸品種の中から、もっとも優れていると思われる一品種に与えられる賞である。