本書の中で花菖蒲関連の部分は、カラー頁128ページ中、およそ50ページとなり、品種としては、およそ130余品種の紹介となりました。掲載される品種数としてはやや少なめですが、他の書籍やインターネットなどでも多くの品種を見ることができますので、今回は品種カタログ的なまとめ方は避け、代表的な品種を発達の歴史順に、なるべく大きな写真で掲載しました。また、栽培方法についても同じ理由で省きました。
代わりに、これまで協会会報は別として、一般にはあまり紹介されたことのなかったノハナショウブを前面に大きく取り上げ、花菖蒲部分のカラー頁五〇ページ中、ノハナショウブの自生地の写真、およびそれぞれの地域に自生する個体の写真や変異個体の写真に十ページを割いたことが、この本の花菖蒲部分の大きな特徴です。そして、ノハナショウブからどのような理由で、園芸種の花菖蒲が発達するに至ったかという部分についても、明確に紹介しました。
白黒ページの本文の部分には、花菖蒲の歴史、ノハナショウブの自生地、掲載品種の解説、各地の花菖蒲園のデータなどが紹介されています。 それ以外にも、各地の代表的な花菖蒲園、協会の活動、館林のお座敷鑑賞会のもよう、江戸や明治期の浮世絵などの紹介もあり、現在の花菖蒲に関する事情がほぼ解る、ダイジェスト的な内容でまとめられています。一冊を通しますと、花菖蒲の専門の書籍ではありませんが、世界のアイリス属の植物と並び掲載されることで、アイリス園芸ににおける花菖蒲の位置が、より明確に理解できるのではと思います。
【撮影旅行】
昨年の五月から七月は、この本に掲載する写真を撮影するため、各地の自生地を回りました。各地と言っても中部地方と、北海道の東部しか訪れることができなかったのですが、苦労したのは何と言っても花がいちばん良い頃に自生地を訪れるということの難しさでした。昨年も暖冬で暖かい日が多く、開花が前倒しになり、以前は中部地方で五月中旬に開花のピークを迎えていたカキツバタも、昨年は五月三日頃が知立の無量寿寺ののピークで、八日に訪れ、ぎりぎりでした。
七月は長野県の人笠山のノハナショウブを、良い日を狙うため三回も足を運びました。開花ピークでも前日に雨が降っては良い花が撮れないので、良い状態が撮影できるかは、まったく運のようなものでした。
七月下旬に行った釧路、根室地方も、飛行機を予約した後で、道北のベニヤ原生花園が七月八日がピークだったと聞き慌てました。七月に入って急に暑い日が増えたためでした。信州の自生地に夢中になっていた頃、北海道でも開花が進んでいたのでした。
もう終わっているかもと、半ばあきらめて北海道に出かけました。根室に近くても別海町の走古丹などは、もう花が終わっていました。しかし幸い、釧路や野付半島はそれでも寒く、野付では日本で最大とも思えるノハナショウブの大群落を目にすることができました (上の写真)。
そしてこの風景でさえ、あと二日もすればここまでに見ることができなくなってしまうかと思うと、本当に幸いでした。
自分では訪れることの出来なかった自生地は、その地方にお住まいの会員の方々にご協力いただき、撮影していただきましたが、みなさん親切にご協力してくださったことが、ほんとうにありがたく得がたい喜びでした。この場をお借りいたしまして、お礼申し上げます。 |