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《世界のアイリス》
   出版にあたって

    理事長  椎野 昌宏

 前号で簡単に予告したが、いよいよ平成17年3月下旬に日本花菖蒲協会編集による「世界のアイリス」が誠文堂新光社から発行さる運びとなった。詳しくは本号でその内容につきご案内するが、ここでこの本を出版するに至った動機と経緯につき書いてみよう。

 筆者が以前、当協会の清水弘理事と話をした時に、彼が世界のイリス属全般について広範な知識を持っており、アメリカアイリス協会の審査委員を務めていることを知って感銘した。彼は周知のように花菖蒲やカキツバタの品種改良家としても有名で、たくさんの優秀品種を発表している。またキショウブの血を花菖蒲に取り入れて作り出した新しいタイプの「アイシャドウアイリス」(会報30号にて紹介)は既に欧米では栽培され、評価されつつあるが、彼はこれを種間交雑による東西世界の交流の証左であると位置付けていた。まさに国際的レベルの次元の話ではないか。

 ここに一冊の本がある。昭和44年(一九六九)に同じ誠文堂新光社から発行された「アイリス」という本である。我々の大先輩、日本花菖蒲協会前会長の故平尾秀一先生が中心となって欧米系のジャーマンアイリス、ルイジアナアイリスや中近東のオンコキクルスなどに、日本の花菖蒲、カキツバタ、アヤメ、シャガなど、世界のイリス属全般を解説し紹介している。まことに先駆的な本で三○数年たった今、平尾先生の世界にもっと目を開きなさいと説かれていた言葉が思い起こされる。ぜひ先生の遺志をうけついで、世界のアイリスを一堂に集めた二一世紀版の本を出したいと考え、役員の皆様の賛同と出版社の快諾を得て実現の運びとなった。

 この本では日本のあやめ文化を受け継ぎ、ノハナショウブという単一の種から発展した花菖蒲と、ヨーロッパのアイリス文化を具現したたくさんの種から生まれた複雑な系譜をもつジャーマンアイリスを2本の柱とし、加えて世界各地に自生するアイリスの原種群とその育成品種を三本目の柱とする構成にした。日本とヨーロッパの園芸文化史的側面を捉えた写真や記述も添えた。

 日本の部門では花菖蒲のもととなるノハナショウブの自生地の写真を多く掲載し、エヒメアヤメなどの保護問題にも触れ、今後の植物資源の保存への意識改革を願った。また世界各地の原種はそれぞれの地域で独自の園芸文化を育てる土壌であるとともに、種間交雑による国際交流はアイリスの未来に大きな可能性を広げる道であることも指摘した。

 出版には企画してから完了までに約2年の歳月を要した。掲載したカラー写真は八五○枚に及ぶが、とくに外国の原種類の写真を集めるためアメリカアイリス協会や英国アイリス協会の幹部や会員の方々、その他欧米のアイリス研究の専門家たちから並々ならぬ協力を得た。植物を通じた国際的連帯感を強く感じた。

 協会顧問の藪谷、岩科両先生、会員の田淵先生にもいろいろご指導いただき、たくさんの会員の皆さんや各地の花菖蒲園にも写真撮影などにご協力をいただき感謝している。

 ぜひ皆様の蔵書に加えていただき、世界のイリス属のなかに占める花菖蒲(Iris ensata cultivars)の位置を再認識していただくとともに、他のアイリスの仲間へも親近感を持って、その栽培を手掛けたり、調査研究したりするステップとなってくれれば幸いである