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    花菖蒲の不思議
                      熊本県阿蘇郡 芹口 徹

きりっとした姿、白地に紫の糸覆輪がたまらない。万人好みの花ではあるが、室内で見るには、やや平咲きに近いところが残念だ。納得のいく花を咲かせてみたい。
この花を逸品というには物足りないが、如何にも名にふさわしい花容で「落花の雪に踏み迷う、かた野ゝの春の桜狩り」といった太平記の名文を連想させらるのである。
 不思議その一 「眠り病」

 それは四年前のこと、三月になると早生系統から順々に新芽が出始めて、十日も経つとすべての芽が出揃うのですが、どうした訳か二鉢だけ萌芽の兆しが見えません。晩生種かも知れないと思って、ラベルを見ると、ニ鉢とも中生種です。根茎を確かめてみると、ニ種ともしっかりと生きている様子でした。
 こうした現象がブドウに希に現れるとか。その場合は休眠打破といって刺激を与えて発芽を促すということを本で読んだことがありますが、花菖蒲の場合はどうすれば良いのかわかりません。とにかく自然の状態に戻してやろうと鉢から抜いて露地に植えてみたところ、一週間ほど経過した頃、二つのうち一つはようやく目覚めて芽を出したのですが、もう一つは終に目覚めることなく終わってしまいました。便宜上、これを眠り病と書きましたが、はたして病的現象だったのか、生理現象だったのか謎のままです。

 不思議そのニ 「一輪咲き」

 花菖蒲は通常は苞の中に二つの花を着けるのですが、どう間違ったのか一輪咲いて終わりというのが現れたのです。この花の苞の外見は普通のものよりもやや大ぶりで、ふくらみが小さく、初期頃にはほとんど扁平に見えるため、これで花が咲くのだろうかと思ったほどでした。これが日を重ねるにつれて膨らみを増し、開花してみると巨大輪でゆったりとした素晴らしい花容であったために、しばしの間、花の前に釘付けとなってしまいました。
一輪咲きの栽培方法がある、と小耳に挟んだことがありますが、私の場合は偶然にそうなったのですから、栽培方法など謎のままです。

 さて、私事ですが、昨年ははからずとも難病に見舞われて一時は人生を諦めかけていたこともありましたが、どうやら神様が花菖蒲を続けなさいと言って下さったようですから、もう少し頑張ります。一輪咲きにも挑戦したいと思っております。