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    私と花菖蒲
                      岐阜県各務原市 柴田 直史

寒冷紗で遮光した花菖蒲
不織布無し
1枚掛け
2枚掛け
昨年の実生株群・・・本当にどれ一つとして同じ花はありません。どの花も愛らしく見えます。
 私の花菖蒲栽培の始まりは、15年ほど前に通信販売で10種ほどの苗を購入したことでした。10年くらいは庭の隅に少し育てているくらいでしたが、インターネットで花菖蒲好きの花友と出会ったり、本協会に加入してからは特に熱が入り、最近では庭のかなりの部分を花菖蒲が占めるようになっています。そして、真剣に栽培すれはするほど花菖蒲の栽培の難しさに気づかされます。なかなか満足のいく花が咲かず未だに試行錯誤の毎日で、先輩方からご覧になればたいした栽培ではないかもしれませんが、ここで紹介させていただきたいと思います。また、始めたばかりですが品種改良についても少し書かせていただきました。

 私の住んでいる岐阜県の美濃地方は、夏は非常に暑く毎年の日本列島の最高気温を記録するような土地で、比較的冷涼な気候を好む花菖蒲は少し栽培しにくい場所です。こんな場所でも花菖蒲は元気に育ってくれていますが、暑さに対処することが栽培を上達する秘訣だと考えいろいろな工夫をしています。

 まず、夏を涼しくすごさせるために、昨年夏の酷暑期に寒冷紗を掛けてみました。これは、10年ほど前の冷夏の年に、日光を好む洋蘭のシンビジウムが天候不良で曇りの日が多いにもかかわらず良好な生育をしていたことを思い出したからです。まったくの日陰では良くないのでしょうが、多少の遮光ならば他の植物の葉影に隠れる原生地と一緒のこと、それで葉や土の温度が下がれば株分け後の弱った苗に好結果をもたらすのではと考えたからです。期間は梅雨明け後の7月下旬から夜間が涼しくなる8月中旬までの1ヶ月間、午前中の比較的涼しい時間帯は日光が当たるようにと寒冷紗は上面だけにしました(西側には隣家があるため西日は当たりません)。苗の上に熱気がこもらないように、高さは地上から1.8mくらいに張りました。実際この下に入ってみると直射日光下にいるよりはかなり涼しく、かなりの効果があるのではと思いました。
 では、実際の結果はというと・・・皆さんもご承知のように昨年の夏は冷夏でしたので、あまり効果は分かりませんでした。生育の差を見るために、直射日光下でも少し育てていた株はあったのですが、それ程違いは分かりませんでした。何年かかけて試してみたいと思います。

 他にも暑さに対して行っていることがあります。冷涼な地域の方は関係ないかもしれませんが、当地では晩生種の花はなかなか満足に咲きません。梅雨時期の蒸し暑さのせいで、花弁が開かず丸まったまま茶色くなってしまったり、花弁やしべの一部が壊死してしまったりする花がたくさんあります。先述したように寒冷紗を掛けたり日陰に移したりすれば温度は下がるものの、茎葉は軟弱になり草姿も乱れてしまいます。そこで、ほんの数日でもよいから早く咲かせるために、出芽を早めるように不織布をベタ掛けしています。不織布のベタ掛けはパンジーなどの春咲き草花の防寒に行われていますが、私は主に品種名のラベルが霜で抜けてしまわないようにベタ掛けを行っていました。そこで春先の出芽状況が不織布の掛け具合で違うことに気づきました。不織布無し、1枚掛け、2枚掛けで明らかに違うのです。何も掛けない株では芽はまったく動いていないのに、2枚掛けの株は5cmくらい伸びているのです。品種によって差はあると思いますが、効果はあると思います。早く出芽して涼しい時期に咲けば、花色も濃く咲くし、その後の株分けも早く出来て後々の生育にも良いと思います。

 以上のように、暑さに対処することが花菖蒲の生育を順調にし、立派な花を咲かせるコツなんだと思います。もちろん肥料や培養土を工夫することも重要ですが、原生地の環境に近づけてあげれば、花菖蒲は本領を発揮してくれるものだと思います。
 
 栽培をしていく上で、いくつか問題も出てきました。
 
 まずは用土の問題です。多分皆さんも一緒ではないかと思うのですが、鉢数が増えれば増えるほど培養土の準備と処分方法に困っているのではないでしょうか。鉢数が少ないうちは赤玉土にバーミキュライトを混ぜて使用していましたが、鉢数が増えてくると経済的にも無理が出てくるのと、なによりも植え替え後に出た土(連作回避のため花菖蒲栽培には使用しません)の処分に困っていました。幸いにも私の周りには畑を貸してくれる方がいて、今は地主さんに許可を得て畑土を使用させていただいています。そして植え替え後に出た土をまた畑に戻すということを行っています。現在はこの方法で用土の問題を乗り切っていますが、いつまでも畑を借りれるとは限りませんので、土の再使用方法が見つかればと思っています。 

 もう一つは花時の水やりのことです。花が咲く時は水をたくさん欲しがりますが、仕事の関係上一日一回しか水はやれず、極大輪の品種などは完全に伸びきらずに花が終わってしまうような気がします。花菖蒲園のように花時だけ水の中に浸けてやれれば良いのですが、現在は4号ポットで1000鉢ほどあるので、そうもいかず、天気の良い日は腰水程度では朝に水を与えても夕方には無くなってしまいます。水遣りの工夫は今一番の課題です。
 一通り栽培方法を知りそれなりに花を咲かせられるようになると、自分だけの花が見たくなってきました。もともと種蒔きが好きで、庭に実ってる種や山に落ちているどんぐり、街路樹の実などを見つけるととりあえず蒔いてみたりと、基本的にこういったことが好きでしたので、花菖蒲でも自然に実った種を蒔いてオリジナルの花を咲かせたりはしていました。ここ数年は、本格的に交配親を選んで改良を行っています。
 既存の品種を栽培し立派な花を咲かせることはもちろん楽しいことですが、今まで見たことのないような花が自分の庭で咲かせられることは、それ以上に楽しいことだと思います。思った通りの花が咲いた時、思ってもみなかった良花が咲いた時、思い通りの花が咲かずがっかりした時、どれも実生栽培でしか味わえない魅力だと思います。
 29号の会報で永田さんが、"今後の日本に、この花を既存より上へ伸ばすことのできる個人の育種家が生まれるでしょうか。花菖蒲そのものが、今の若い世代の興味の対象からかけはなれています"と書かれています。私自身は、"既存より上へ伸ばすことが出来る育種家"なんて偉そうな人にはなれそうも無いですが、たとえ良花が咲かなくても自分が作り出した花だというだけで嬉しいですし、いつかどこかの花菖蒲園や、見知らぬ人の庭に咲いていることを夢描きながら毎年交配作業を行っています。
 今は個性の時代です。一般うけするバラや蘭なども良いけれど、私は日本の伝統美である花菖蒲に惹かれ、自分の花を作りたいと思っています。
 勉強不足で良花を見極める力も無く、皆さんにお見せするには恥ずかしいのですが、昨年咲いた実生花たちを少し紹介してみたいと思います。
桜舟×千姫@

 濃い桃色で花弁のふちが白く抜けています。この交配では濃い桃色の他、パステルピンクの花や、桃に白い吹き掛けが入ったものなど、ピンク系の花がたくさん咲きました。草丈は両親に似て低い個体が多いです。
桜舟×千姫A
三河八橋×水天一色

 三河八橋ゆずりの青い花色が目立つ三英花。花弁もとの黄目がほとんど無く、しかも芯が垂れているので、黄色が見えずよりいっそう青く見える個体です。兄弟株は三河八橋似の花色の個体が多く、草丈は水天一色に似て高いものが多いです。
池水の綾×七彩の夢

 白地紫脈と白地紫覆輪の交配ですが、出来た子供は紫の砂子が入る大輪花。兄弟株も同じような花色がたくさん出ました。この株のように親からは想像も付かないような花が咲くのも、実生の楽しみです。
 以上、私の花菖蒲についての工夫や思いを書かせていただきましたが、何にせよ花菖蒲栽培は奥が深いということです。次から次へと疑問が湧き、思うような花を咲かせるには一生かかっても出来ないような気がします。それでも花菖蒲は、花友を作ってくれたり、四季を感じさせてくれたりと、私の中では大きな存在になっています。なかなか思うようにはいかない花菖蒲ですが、今後もがんばって育てていきたいと思います。
 また、私はインターネットでホームページを開いておりますので、機会があればそちらもご覧になっていただけると嬉しく思います。そして、ご意見やご指導をしていただけたら更に楽しみも増えるのではと思います。

ホームページアドレス  http://shibazoh.hp.infoseek.co.jp/
三河八橋×鮮紺六 ことすが
DIOMEDS(外国種) CASCADE CREST(外国種)