アイリスまたはイリスという名はアヤメ科のイリス属の総称であり、この仲間は北半球の北緯二○度から六五度の温帯に広く分布している。花は三弁が直立し、三弁が下垂するいわゆるアヤメ形が共通形態となる。園芸としては世界の東西で独特な発展をとげた。日本では江戸時代から自生のノハナショウブを改良して、紫を基調としたたくさんの花菖蒲の品種が作られ、今日の隆盛をみている。一方欧米ではヨーロッパ各地の自生種をもとに、彩り豊かで魅惑的な多くのジャーマンアイリスの品種を生んだ。この二つの大きな園芸品種以外にも日本、中国、中央アジア、地中海沿岸、北米などでそれぞれ特色のある原種や交配種が続出している。
日本花菖蒲協会としては勿論日本の誇る伝統花の花菖蒲の栽培技術や品種改良と保存に努めることが使命だが、果たしてそれだけに留まっていてよいのかと自問し始めている。
園芸の世界でも国際化、グローバル化が急速に進む現在、花菖蒲もイリス属の一つとして認識し、同属の他のアイリスについても総合的に捉えて、世の中に啓蒙し普及させる役目が今後課せられてくるのではないかと考えている。
ジャーマンアイリスは既に日本では東北、北関東、長野県など土壌と気候が合う地方で盛んに栽培されて日本人には周知の園芸植物となっている。しかし世界の他地域の原種や園芸種は球根系で切花用のダッチアイリス以外はまだ一般に知られ普及しているとは言えない状況だ。まず花菖蒲以外の手近にある日本のイリス属から協会会報などで紹介し、会員の関心を集めることから進めていきたい。
万葉の時代から日本人に親しまれてきたカキツバタをはじめとして、日本のイリス属植物にはアヤメ、エヒメアヤメ、シャガ、ヒメシャガ、ノハナショウブ、ヒオウギアヤメの七種がある。また古くから渡来してあたかも日本原産のように思われて広く栽培されてきたものにヨーロッパから中央アジア原産のキショウブがあり、中国原産のイチハツもあるが、それぞれ日本の風土に適応して良く育ち親しまれてきた。園芸的にはノハナショウブから改良された花菖蒲がメジャーで、カキツバタがそれに続く。他は一部の山草愛好家に栽培されたりしているが園芸的にはマイナーな存在である。
外国に目を向けると、世界で一番大きな組織のアメリカアイリス協会はジャーマンアイリスを中心にそえて、それ以外に花菖蒲、シベリア・アイリス、ルイジアナ・アイリス、カリフォルニア・アイリス、北米産原種などに特化した活発な下部組織をもっている。英国やオーストラリアのアイリス協会もジャーマンアイリス以外の世界各国のアイリスを網羅的に扱っている。
日本花菖蒲協会も花菖蒲の伝統を維持発展させるとともに、日本産イリス属の他の仲間も対象品目として研究と普及に努めるべきだ。勿論個人ベースでは、カキツバタやアヤメを熱心に栽培している方もおられるが、組織の一部として取り込めば会員間の情報の交換が容易となる。さらに最近ノハナショウブやヒオウギアヤメの自生地と変種の調査に注力している会員が増えてきているのも歓迎すべき傾向といえる。内容を多角的に充実させることにより、園芸国際化の時代にあって、日本花菖蒲協会の対外的評価をより高めることができると思う。
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