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 花菖蒲あれこれ

       岡山県、片岡 文男     

片山氏から送っていただいた光田先生の作品。「金鯱城」「桜物語」「桜前線」の作品は、先生の最晩年の作とのことです(編集部)。
 前年度の会報に記載された当方の文を読み、賛否両論の意見がありましたが、多くの方からお便りをいただき、どうも有難うございました。今回も思いつくままに、読まれた方が多少でも参考になればと思い、書き出してみました。

 平成十四年より通信販売をはじめましたが、一部の方より他の園より販売価格が安い、高いという指摘を受けました。本や園芸誌などの写真を見て、入手を考えるときに一番気になることは、やはり販売価格ですが、花菖蒲というより植物には電化製品と異なり全国共通の小売価格はありません。
 新花では多くの場合、品種を改良した者が価格を決めるのが一般的で、発売初期は高価ですが、年数を経て多くの人が入手し増殖して来れば、自然と価格も下がってきます。その中で何年経過しても価格が下がらない品種は、繁殖力が弱く、かつ花も美しい品種です。
 一般的な品種は、安定した価格で販売されていますが、特定の園でしか見られない品種や、貴重な品種などは、門外不出として販売していないのが現状です。また特殊な品種を持っておられる方が、一ヶ所だけの保存では絶える恐れがあるので、しっかり保存してくれる場所に保存をお願いされることもありますが、一般には販売しないでほしいと言い渡す場合もあります。しかし、知っていただきたいことは、一般に普及している品種が劣った品種でも、お止め花が抜群に良い花でもないということです。
 多くの場合価格の違いは、販売している園の価値観の違いです。参考までに当園の価格の付け方は、購入した価格を参考にして、一般的に入手しやすいと思う品種は五百円、入手がやや困難と思う品種は千円、最新花や入手困難な貴重品種は1,500円から3,000円の価格を付けて販売しています。

 購入した品種が「花菖蒲品種総目録」に記載されていないので、品種名や系統が間違っていないか不安だ。

 1995年に協会より発行された「花菖蒲品種総目録」ですが、この目録は、これまで花菖蒲関係の文献記録に記載された品種をもとに、この目録を作成する前に、事務局が各個人および花菖蒲園に保持している品種のリストアップを要請し、全国に散らばる品種の存在を把握し、そうしたリストに近年新たに作出された品種を加え作成してあります。しかし、リストアップの要請に答えて頂けたのは、全体の三割に満たないという状況でした。従って、文献にも記載されておらず、事務局側でその存在が掴めていない品種については、当然品種総目録には記載されていないことになります。

 総目録は、読みが不明だった品種の読みが判明したり、花容が書かれているので品種確認に当方は重宝しています。また目録に記載のない品種は、入手した地域では、その品種名として流通していると考え、保有の対象にしています。
また、系統が記されていない品種もありますが、今日では異なる系統間の交配のため、作出された花がどの系統に入るのか判断に迷い、結果空欄にされていることもあるようです。現代の花は、作者が各系統の基準に拘って作出された品種のほかは、系統に分けることは今後無意味になると思われます。

 ホームセンターなどで購入した花菖蒲の写真の色と開花した花色が違っていた。

これの多くの場合は、販売店などで苗が日光に長く当たったため、ラベルが劣化し変色したことが上げられます。あるいはその品種に見合うラベルがないため、類似の花のラベルを使用してあるなどです。似た品種とは言うものの見る人の感性によって異なることが多いので、当然花容の異なる写真ラベルが付いていることも不思議ではありません。
当方は、正確な花色を口答で説明するのは不可能を感じ、約五年かけて保有品種の大部分をデジタルカメラで撮り、開花期以外に購入される方には写真を見てもらい口答で花色を補足しながら対応しています。

 アパートのベランダで花菖蒲を栽培したいが、どんな系統や品種を購入して良いかわからない。

花菖蒲には多種多様な花がありますので、最初は戸惑われるかもしれませんが、系統に拘る必要はなく、栽培する人が自分の気に入った花を栽培するのが一番です。しかし、一概には言えませんが、見た目に派手な美しい品種ほど性質が弱い傾向にあります。こういう品種は価格もまた高くなっていますが、逆に価格の安い品種は丈夫でよく殖えるので安くなっていますので、栽培に慣れるまでは手ごろな価格の品種から始められると良いかと思います。
また、色彩の濃い品種ばかりでなく淡い品種もあれば、咲いたときにお互いが協調しあって美しく眺められます。

 品種名の無い株に名前を付けたい

これはお勧めできません。品種が混乱する恐れがありますので、くれぐれも行わないようにして下さい。それより、名札が紛失しないような努力をしてください。例えば鉢にその品種名を書いておくとか、露地圃場では植栽見取り図を作っておけば札落ちしても安心です。
ご自分が作出した個体に名前を付けるのは一向にかまいませんが、札落ちに名前を付けるのだけは厳禁です。正確な品種名を鑑定するのは不可能に近く、後世に品違いの株を伝える原因になります。加茂花菖蒲園から出ている「花菖蒲銘花集」も鑑定にはもちろん使えますが、あれを購入して品種名を付けようなどと考えないで下さい。

 近所の方に花菖蒲を切花でいただきました。後日、その時着ていた服を見ると何箇所かに褐色の染みがついていて、どんな洗剤でも落ちません。花菖蒲と何か関係があるのでしょうか。

これは花菖蒲に含まれるタンニンという成分が茎を切ることで染み出し、衣類などに付着してもその場ではわかりませんが、洗うことで褐色に変色し、染みとなります。通常の洗剤では落ちませんが、塩素系の漂白剤に一晩漬けてから洗濯をすれば落ちます。ほんの小さな一ヶ所程度なら、漂白剤の原液を少し薄めた程度の濃い液を、染みのところだけに筆先やスポイトなどで垂らし落とせば、染みは見る間に変色して目立たなくなります。が、高濃度の漂白剤は衣類を傷めますので、予防として花菖蒲の株分けなど草汁が付き易い作業をおこなう時は、染みが付いても良いような衣類に着替えて作業を行って下さい。切花の持ち運びにも、切り口をビニールなどで覆い、全体を新聞紙などで包み、衣類などに直接触れないように注意してください。

花菖蒲の手入れ作業中に鋭い刃物で切ったような傷が付くことがありますが、どこで切ったかわからない。

これは未経験で信じられないという方や、傷が付いたことは知っていても花菖蒲の葉で切ったとは思っておられない方も多いと思います。
私は何度か経験していますが、花菖蒲の葉は意外と鋭く、例えば手の中で葉を滑らしたときに切れることがあるほどです。皮膚の弱い方は長袖の服を着たり、手袋をして作業してください。


品種改良をしてみたいが、良い花が作出できるか不安だ。

人により価値観や美意識は違いますので、とにかく実生してみることだと思います。交配すれば秋にはタネが取れますので、次の年の春に蒔けば、その翌年の初夏には咲いてきます。既存の品種より良い花でなくても、自分で育てた花は可愛いものですし、何事もはじめから上手くいくわけはないのですから、続けることが大事だと思います。

現在のところ、花菖蒲を育種する人がひじょうに少なくなりましたが、一人でも多くの育種家が増え、誰もが新花を購入できるように、作者自身が有償で販売することを例えばこの会報で公表することを私は希望します。


私から協会の会員の方々にお願いですが、私を含め会報に投稿される方は、毎回同じ方が多く見られます。これは投稿者が少ないためで、多くの方が投稿していただければ、遠方の花菖蒲園を見に行くことが出来ない人でも、自宅にいながら各種の情報を入手することができます。全国に協会員の方々が在住しているのですから、ご自身の花菖蒲栽培の自慢話でも近隣の花菖蒲園の情報でも良いので、多くの方が協会報に投稿していただければ、より一層の魅力ある会報になると考えられます。一人でも多くの方のご投稿をお願い致します。