実生新花と花の謎 その4 〜アイシャドウ・アイリス〜 相模原市 清水 弘 |
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本誌の第二十八号に「キハナショウブの新時代」との表題にて、育種経過と弱干の新花を紹介したが、その後、毎年に渉って新しい花色、配花色パターンの個体が続々出現し、従来の「黄色をした中途半端なハナショウブの雑種」という概念では、収まりが着かない発展の仕方なので、新しい呼び名「アイシャドウ・アイリス」を提唱し認識を新たにすることとした。
ちょうど米国のノリシー氏が、我が国やアジヤ東部に野生するヒオオギとイリス・デコトーマを交配して、得られた雑種群を「キャンデー・リリー」と命名したのと同様に、両親のいずれとも異なり優れた新しい合成品種群を形成しつつある。このアイリスの特徴は先々号に書いた通りであるが、それに付け加うるに「大きな特徴は、シグナル(外弁基部の黄色い目)の周囲に紫色を主体とした縁取り(ハロー)が存在する」ことである。これをヨーロッパ婦人のアイシャドウに見立てて命名の由来とした。 実は、この命名は多分に若い方や欧米人うけを狙っているが、その真意は「我が国に原産し、我が国の人達が多少の関心をもって育ててきたギボシやヘメロカリスの育種・発展が、残念にも欧米の人達に持って行かれてしまったという現実を目の当たりにして、せめて、ハナショウブ関連の育種では、我が国が先導的役割を果たしたい。」と念願してのことである。 欧米にはいくつものアイリス協会がある。特に米国のアメリカ・アイリス協会は、会員七千〜八千名を有するもっとも大きな協会で、球根アイリス(ダッチ・アイリスが代表格)以外の根茎アイリス、特に日本側でジャーマン・アイリスと呼ぶ園芸品種群を中心対象として盛んに活躍している。 小生は数年前からこの会の審査委員に任命されているが、この会で取り扱われてアイリス類はきちっと園芸的分類がされ、前者以外のアイリスも多くのセクションに分けられ取り扱われている。産みの親としてではなく、広範にあるアイリス類の一審査委員としてこのアイシャドウ・アイリスを冷静に見ると 1、花期が六月で、ハナショウブ以外の他のアイリスの花がない頃に開花する。 2、花色、花型、配色パターンに、独特のバリエーションを持つ。 3、栽培のし易さ 等々の特徴からいって、新しいセクションとして独立させるべき存在だ思われる。試しにこのスライドを、アメリカ・アイリス協会の人達を始めヨーロッパ各国、オーストラリアそれにニュージーランドのアイリス愛好家の人達に見せたところ物凄い反響があったので、幾つかのスライドと共にこのアイリスを紹介する原稿を今秋、彼らに送ったところである。 |
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さて能書きはこれ位にして、シリーズとした花の謎解きの話を進めよう。春の花壇を眺めると、花の色はまことに多様多種である。白色、黄色、赤色あり、時として黒っぽいものもある。花びらの色はそこに含まれている色素が母体となって現れているわけであるから、まずは先人の研究業績を紐解いて、一般の花びらの色素を類別してみると、カロチン類、フラボン類、アントシアン類の三つのグループに分けられる。カロチン類は、赤やオレンジ、黄の色をしている色素の一グループである。カロチンはアイシャドウ・アイリスの花粉親としたキショウブ(原産は欧州)の花弁に大量に含まれている。実はこの色素は花びらばかりでなく、葉や根、果実など植物のいたるところに含まれており、我々の食卓を賑わしているニンジンやトマト、カボチャ、カキなどのあの特有の色は、みなこのカロチンによるものである。ちょっと難しくなるが、このカロチンは水やアルコールにとても溶けにくい性質を持っていて、花びらの中では水に溶けて含まれることはない。カロチンは、花びらを構成する細胞の外側にある細胞質という中に、ある特殊な粒状構造(プラスチド)に閉じ込められ、結晶状や沈殿状となって含まれている。(図1参照)一方、フラボン類やアントシアン類はもともと近い物質で、例えば、茶や柿の渋ももとになっているタンニンは両者に共通の基本構造をもっている。フラボン類はうすい黄色の花色となり、アントシアン類はピンク色、赤色、紫色、青色などかなり幅の広い色を呈する。本来、この両者も水に溶けにくいものであるが、植物中に含まれるブドウ糖等と結合することで水に溶けやすい状態となっている。ハナショウブの持つピンク色、紅色、紫色、青紫色等の一連の花色は、このアントシアンによるもので、花びらを構成する細胞の中にある、液胞中に水に溶け出した状態で存在している。(図1参照)余談だが、野菜などを煮ると、汁がやや黄色味をおびてくるが、これはこの結合がこわれて中のフラボンが溶け出したためである。また、ハツカダイコンを酢の物にすると酢が赤くなることがあるが、これはアントシアンが酸類にとてもよく溶ける性質をもっているためである。 |
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