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県民公園頼城の森 |
県民公園頼城の森では、花菖蒲の美しさを多くの人たちに楽しんでもらうために、毎年6月の20日頃から8日間前後、「花しょうぶ祭り」を開催している。しかし、春季の気象条件によって、花菖蒲の開花時期が年により大幅に早回る場合があることから、このイベントの開催期日を開花の約1ヶ月前の5月に入ってようやく正式決定しているのが実情である。
そこで、平成5年〜7年の3ヵ年にわたり、花菖蒲の開花時期(70品種前後)について調査した結果をもとに、春季の気象条件と花菖蒲の開花時期の早期化との関係について検討した。
なお、当地で花菖蒲の芽が土中で動き始める3月から、開花を終える6月までの4ヶ月間を春期と考え、この期間中の気象経過の特徴と、旬別平均気温をもとに当該年値と平年値との気温格差について比較検討した。また、花菖蒲の一番花が半分程度咲いたときを、各品種の開花時期とした。
調査結果と考察
1 春季の気象経過の特徴と開花時期の早期化との関係
調査年次の気象経過と開花時期の移動との関係について検討したところ、四月から五月上旬にかけての旬別平均気温で十度から十五度を記録する時期の遅速の違いにより、花菖蒲の開花時期が大きく左右される傾向があることがわかった。
すなわち、各調査年の四月から五月上旬にかけての気象経過の特徴と花菖蒲の開花時期との関係についてみると次のとおりであった。平成五年の春のように冬の名残りの強い寒気が遅くまで居座った場合、この時期の気温は平年並みあるいは平年値より一〜二度低めに推移した。また、平成七年は寒気の流入があったり、逆にフェーン現象により気温が上昇するなど寒暖の差が大きかったものの、旬平均気温で見ると平年値に近い値で推移した。これら両年の間には花菖蒲の開花時期には大きな差は認められなかった。これに対し、平成六年は四〜五月にかけて移動性の高気圧に覆われて暖かい日が続き、平年値の気温より二度程度高めに推移したが、この年の花菖蒲の開花期が上記の平成五年あるいは七年に比べて五〜十日間早回った。このように、春の季節の変わり目の気温条件が、花菖蒲の開花時期の決定に大きく関与するものと思われる。
当地は積雪量が多い地域であるため、融雪期の遅速が花菖蒲の開花時期を決める要因になることも考えた。しかし、十〜十五度の温度は植物の種子が芽を切り花菖蒲などの宿根草にあっては株から芽を伸ばし始めるなど植物に春の到来を告げ生長の再開を促す温度条件であることから、この温度帯の到来時期の早回りが花菖蒲の開花時期を早める主要な要因になるものと思われる。
2 品種の開花期の早晩生と開花時期の年次変動との関係
花菖蒲の開花時期を調査した三ヵ年について、品種ごとの開花時期の変動状況を図に示した。この結果、先にみたように春季高温年であった平成六年はいずれの品種も明らかに開花時期が早まっているが、開花時期の早期化の程度が各品種の開花期の早晩生の違いにより大きく異なることがわかった。
すなわち、極早生〜早生の品種にあっては、高温年(平成六年)の開花時期が普通年(平成七年)あるいは低温年(平成五年)よりも十日間前後早まっているのに対し、中生〜晩生品種の場合は五日程度早回ったにすぎなかった。言い換えれば、四〜五月上旬にかけての気温の違いに関して極早生〜早生種は気温反応の感度が高く開花時期が変動しやすいのに対して、中生〜晩生は気温反応が鈍く、それだけ開花時期の変動幅が狭いことがわかった。
花菖蒲について系統別に開花時期の早晩性の構成割合についてみると、江戸系、伊勢系は早生種の比率が明らかに高いのに対して、肥後系およびその他の系統は中生種が主体で早生種の比率が極めて低いのが大きな特徴である。
ノハナショウブを原種として長い歳月をかけて改良が続けられて現在見るような多様な特性を備えた花菖蒲の品種が作られてきたが、それぞれの地域の品種改良の目標の違いが各系統毎の特性の違いとして現れているものと見られる。すなわち、庭園などに植え込んで群生美で競うことを大きな狙いとして発展してきた江戸系や伊勢系では、一日でも早く花菖蒲の花が見たいという欲望に促されて早生化を図ることが改良の大きな目標の一つとなり、その結果これらの系統では早生種の構成比率が高まっていったものと見られる。これに対して、肥後系に見られるように野外での鑑賞よりも鉢上げして室内で鑑賞することに重きを置いたところでは、六英咲きをはじめとして花容の豪華さに力が入ったため、開花時期の変異の幅については比較的狭いままになっているものと思われる。
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