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 環境問題は種の保存から

    理事長  椎野 昌宏

 新しい世紀、二一世紀を迎え、最大のテーマは地球環境問題にあること、論を俟ちません。国際自然保護連合(本部スイス、日本など七十ヶ国が加入)による調査報告によると、世界には約二七万の植物の種があるが、その十二・五パーセントに当たる、約三万四千種が絶滅の危機にあります。これは八種類に一種類が絶滅の危険があるということであり、たいへんな数字であることがわかります。

  森林の伐採、住宅などの開発による自然破壊が急速に進んだことや、ヒトやモノの激しい移動に伴い、よそ者の種が原生種に混ざって成育し、原生種を追い出し消滅させることで、植生の秩序を乱しつつあることに起因します。

 日本でも万葉の昔から、私たちにとって身近にあって親しんできた秋の七草ですら、フジバカマやキキョウは絶滅危惧種となっています。環境庁は日本にある植物のレッドリスト(絶滅危惧種)として、一千四百種を指定し、その保護を呼びかけています。花菖蒲の原種であるノハナショウブは、東北地方を中心として分布し、比較的自生地が残っていますが、乱開発が進めば、絶滅に向かう可能性もあります。

    種を保存し生態系を維持することは、人類にとって大切なことであり、医薬品の多くには、植物の成分から開発されるものも多く、植物の種の減少は、医薬品開発にも支障が出ることが心配されています。

    一方、日本国土の五割もの熱帯雨林が、毎年乱伐のため失われつつあるとされ、それによる二酸化炭素の放出と、石油、石炭などの化石燃料の消費による二酸化炭素放出が加わり、地球の温暖化現象が進みつつあります。
  私自身、今になって考えてみますと恥ずかしいのですが、若い頃に木材輸入の仕事に携わっており、ラワンなどの木材をインドネシアから五千トンくらいの船に満載し日本に持ってきて、製材会社や合板会社に売っていました。スマトラなどの密林や山地に分け入り、伐採現場を見てきました。直系一メートルから一メートル五十センチくらいの、真直ぐで高さ三十から四十メートルくらいの巨木だけを伐り、平坦な土地の場合には後を焼き払い、農作物やパームオイルを取る植物を植えます。したがって将来、元のような原生林として復活しません。ラワンなどの熱帯広葉樹は植林が難しく、一度失われたものは、取り戻しできないのです。インドネシア政府も、資源枯渇に危機感を持ち、二十年くらい前に原木の輸出を禁止しました。しかし、南米アマゾン川流域の熱帯雨林を焼き、農業や牧畜用地にする開発は現在も行われており、森林の消滅は、二酸化炭素の増加の一因となっています。

   また動物は、特に膨大な種類と数の昆虫類が絶滅しつつあります。生態系のバランスの破壊は、地球温暖化だけでなく、色々な悪影響を人類にもたらします。


    日本の園芸家は、日本の原生種であるノハナショウブから作出された花菖蒲を江戸時代から三百年にわたり継承し、栽培してきました。これからも、ノハナショウブの自生地は大切に保護しなければならないし、園芸種も伝えてゆかなければなりません。種を保存することによって、生態系のバランスを維持し、環境問題に関心を持って微力をつくす、このような強い意識と理念を持って、私たち日本花菖蒲協会も花菖蒲の普及活動をしてゆきたいと思います。