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みちのく黄金

手作り村 鯉艸郷(りそうきょう)
片側植え替え法       

青森県 中野渡 裕生  


 鯉艸郷は青森県の十和田市に十二年前誕生した、まだ新しい花菖蒲園です。そして鯉艸郷は、ただ花菖蒲園というだけでなく、北海道を思わせる広々とした大地と八甲田の山々を背景に、人と動植物が一体となって、生きる喜びを体感できる、まさに鯉艸郷という名がふさわしい観光農園です。六月下旬から七月中旬ごろに最盛期をむかえる大花菖蒲園(およそ一町歩)がそのメインではありますが、その他にもさまざまな高山植物が咲き乱れるロックガーデン、芍薬園、ルピナス園、竪穴式住居などがあり、また園内の数々の建築物、自然の素材をつかった食事、無農薬のリンゴジュース、数々の地元特産の土産物など、ここにいると、すべてから手作りの温もりが伝わってきます。  


 そして花菖蒲がとてもすばらしいのです。元来この地方は、田圃のあぜ道にもノハナショウブが自生するような、花菖蒲の生育適地ではありますが、まず驚かされるのがその花色で、夜間と日中の温度差と強い太陽光線から、花色がとても鮮やかになるのです。関東以西の地域でくすんで寝ぼけてしまうような花でも、見違えるほど鮮やかな花色に咲いています。どの品種も元気良く、性質の弱い宇宙なども株立ちで咲き揃うという、関東以西に住む私たちにはちょっと信じられないというか、うらやましいほどです。これは気候のせいもありますが、良質の堆肥を使用し丹精を込めて管理した、やはり手作りのなせる業です。  


 地球はいま、年々温暖化が進んでいます。それはニュースや新聞で知る以上に、実感として私たちはすでに知っています。昨年の七月にこの園を訪れたとき、関東以西は三十五度を越す猛暑でした。鯉艸郷のある東北地方はこのとき二十三度。そして原野に咲き乱れるノハナショウブを見たとき、この花はこの冷涼な環境が好きなのだと改めて気付きました。帰りの飛行機で羽田の上空から眺めた東京は、熱風とスモッグによどんで、この環境で花菖蒲がうまく育つ方が不思議なのだと思ったとき、今後さらに関東以西の平野部では、花菖蒲園を維持していくことが難しくなるのではないかという危機感を覚えました。そして関東以北の冷涼な地域こそ、花菖蒲が本当にその美しさを発揮できる場所なのだと感じました。十和田の鯉艸郷は、まさに花菖蒲の理想郷でもあるのです。  (編集部)



片側植え替え法   中野渡 裕生  

 当園は開園後十二年目を迎えますが、花菖蒲の長い歴史からすればまだ若輩者です。毎年立派な花を咲かせることの難しさを、今つくづく思い知らされております。  花菖蒲の栽培で、年間の管理上最も大変で経費もかかる作業に花菖蒲の植えがあります。これにつきまして私どもが採っている方法をご紹介しましょう。  


 当園は大別しますと三ヶ所の圃場に分けることが出来ますが、一区画(約一反歩)に区分けし、二十五区画あります。全園の三分の一、約八区画ごと毎年植え替えするようにして、三年サイクルを基本にしておりましたが、その年のい天候や、作業の進みぐあい、人夫の確保などに左右され、思うように作業が進まないのが現状であります。しかし当地方などの東北地方のとくに太平洋側は、夏に「やませ」といい、太平洋から内陸へ吹きつける冷風があり、この影響からくる冷夏は、花菖蒲の生育には都合が良いようであります。  

片面掘り取ったあと
片面掘り上げて植付けた常態


 今までの植え替え要領を申しますと、花後なるべく早く植え替え区の株を全部掘り起こし、株分けをしている間に、バックホーで圃場を深耕し、その後に山砂と黒土を三対一の割合で客土し、土の表面をある程度水平にならしてから苗を植え付けます。植え付ける際には、大きな圃場の場合次図のように区分けし、植え付ける方向を考えながら、全体から見て美しいように、また花色、高低、開花期などを考慮して植え付けます。  


 このような方法で、これまで作業をしてきましたが、圃場を作るのに手間暇がかかるのと、人手不足などもあり、昨平成十年の植え替えは、次のような方法で行ってみました。  


 まず二条植えの東側、南北に植え付けてある場合は南側の列を全て掘り上げます。そしてもう一方の列も、一株の約三分の一程度を切り取ります。そしてその部分をなるべく深く掘り、そこに堆肥を入れてゆきます。このとき、植え替えない側にも堆肥を敷きます。そのあと先の山砂と黒土を客土し、堆肥と客土とを管理機で耕し混ぜ合わせます。そして掘り上げたところに、堀り上なかった側と同じ品種を植え付けます。このようにして植え付けた後、約二年後にはもう片方の列をこれと同じ方法で植え替えて行きます。  


 植え替えをこのような方式で行う利点としては、まず作業労働が従来の三分の一にまで削減できるということです。また品種を植え付ける場所、順序などに気を配ることもないので、人夫だけで作業を進めることができます。加えて圃場一枚を全部植え替えてしまった場合、その翌年の開花が貧弱になりますが、この方法ならそれもあまり気にならず、全体から見れば満足できるのではと思います。  今のところ心配している点としては、植え替えた側と植え替えなかった側とで草丈が揃わずバランスが取れないかもしれないということです。  


 何分にも初めての経験ですので、この結果がでるのは今年です。開花期によく観察し、成育状況や全体のバランスなどを含め、再度皆様へ報告しながら、ご指導を仰ぎたいと思います。