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平尾先生 1983年(16年前) 靖国神社の花菖蒲審査会にて

日本の花を増やす

東京都 日高 万典


 平尾先生は、亡くなられるほんの少し前、東京花菖蒲会の定期展示会場である靖国神社に寄って下さった。そこで、簡単な交配技術と、親の選び方のコツと、白花が最高と思うようになったのは、年齢の所為もありましょうね。と話して下さいました。
 ですから私の自慢は、文字通り平尾先生の最後の弟子であるということと、先生から教えていただいた、この「白花」を交配して行くこと、そして交配種を増やすことが、先生の意思を継ぐことになると思っております。しかし都内ですから場所もありませんし、既成品種の栽培場所さえも、最近どんどん無くなって来てしまいました。


  品種作出には、自分の好みの基準をしっかり持っていること。悪いと思う品種は他人に相談せず、直ちに棄てること。将来性を考えて、交配親を選ぶこと。この三点だと先生から教えられましたが、これがとても難しいことだと思い知らされています。発芽率を高め、沢山種子を蒔いて、早く育て早く咲かせて、すぐ選抜しないと場所がありません。


  発芽率を高めるには、朔果が枯れたらすぐ刈取って乾かし、密封冷蔵すること。早く育てるには、東京でも二月末に細かな砂に蒔き、発芽したら少し伸ばして、すぐ別の細砂に次々に移し、植え付け三日後からハイポネックスの二千倍液を、潅水がわりに一日おきに与え続けます。そして本葉が二枚くらい出る頃、第二回目の植え替えを行い、本葉三枚のとき三回目、五枚で四回目の植え替えをし、それぞれ成育の似通ったグループに分け、植え替え毎に腐葉土を増して行きます。こうして九月初めには、三寸五分鉢植えで葉が五枚程度の苗が得られ、こうなれば次の年の六月には、立派な初花が見られるでしょう。

 栽培の技術的なことは、馴れれば何とかなりますが、良い花を選び、気に入らない花を棄てる選別の作業が、一番難しいことになります。実生で咲いた初花は、これは駄目だと一目でわかるものは少なく、どれも美しく素敵に見え、あれもこれもと見れば見るほど迷いは深くなり、全部出世しそうで、残したくなります。極早生咲き、短桿六英とか、遅咲き変化花大輪とか、花色や咲き方を含め、どのような花を作出したいか、目標をしっかり絞っていないと迷います。

  第二に、花はさほどでなくとも、花形がしっかりしていて、耐病性が優れているとか、色が鮮明である、葉の形が特にすっきりしているとか、次代に良い性質を伝えられそうなものを残します。第三に、棄てる花を知るために、既成の品種を良く知ることも大切です。花菖蒲展を見廻って品種の特徴をよく知ること。幸いにも三池さんが五百品種ほど毎年きちんと維持してくださっていますし、各地の花菖蒲園でも数多くの花を見ることが出来ますので、よく見て、よく憶えて、よく考えて下さい。

 自分の作出した花は、世界にここだけにしかないものですから、とても愛着がわきいいものなのですが、駄花を殖やしても仕方ないわけですから、しっかり自分なりの選別をし、自分の楽しみにして下さい。 この年に咲かないものは、肥培して次年に咲かせますが、最初成育が悪くぐずぐずしていたののが、次年(三年め)に以外に強健であったあり、良い花であったりすることもあります。こういった残す株数も考慮しながら、次の交配計画を練ります。F1間交配や戻し交配、咲く時期が合わなければ花粉の乾燥冷蔵など、雌花に稔実性の高いものを選んでおけば、かなりの種子数が得られます。 初花で選別し、残したものは直ぐ六号鉢に植え替えて、耐肥性や耐暑性、耐病虫性、繁殖力、株立ちの美しさなど、次の選別に移り、これを数年繰り返すうちに、良いものが自然に残ってまいります。

 数多くの人が、数多くの交配を行えば、より立派な新花の出現機会も増える訳ですから、皆さんも交配を心掛けて、花菖蒲栽培の楽しみを一段と高め、深めて戴きたいし、平尾先生も常にそれをおっしゃっておられました。

日本の花、花菖蒲をもっと増やしましよう。日本の文化の維持のためにも。