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 釧路百合咲き花菖蒲

                北海道釧路市 佐藤 文治
夢 鏡(むきょう)
Vサイン

 「釧路百合咲き花菖蒲」 江戸でも長井でも、もちろん肥後でも伊勢でもない、新しい系統の花です。

 これらの花の親になった個体は、北海道の釧路市近郊、現在は釧路白糠工業団地となっているところで、一九七三年頃、一メートルと離れていな場所でニ個体を発見しました。その当時はまだ、この海岸草原地帯はそのまま原生花園であり、七月には無数のノハナショウブが咲いていました。この場所で、花弁の細い六英咲きで、花の色は濃紫と桃花のニ個体を発見しました。

 濃紫花の方は外花被と内花被の先端が尖っていおり、桃花個体の方は、花弁の先端が丸く、いずれの個体も花弁の幅は一、五〜二、五センチくらいと細く、百合の花に似ていたので、このため「百合咲き花菖蒲」という名前を付けました。

 このニ個体の交配による最初の実生花が、1976年に咲きましたが、その約90%は、単純なノハナショウブでした。しかし交配を重ねることによって、百合咲きの出現率が多くなってゆきました。また、丸弁の六英花も出現しましたが、このタイプは現在の園芸種のも多くありますので、育種する意味はなく淘汰してゆきました。ですから、今回ご覧いただいた品種も、すべて発見したニ個体の子孫で、園芸種の遺伝子は入っておりません。

 また、この種は十数年前に仕事が忙しくなり、趣味の花の方にまで手が行かなくなったことがあり、そのときに百合咲き花菖蒲の成株を、全滅に近いほど枯死させてしまいましたが、実生苗の方は無事でしたので、その苗により数個の百合咲きが出現し、復活させることができました。なお、この百合咲きの系統は、現在でも実生を重ねるごとに色々な花形に分化しており、今後の育種が楽しみです。

○三英咲き花菖蒲 夢境など
 1976年頃から、ジャーマンアイリス咲き花菖蒲の育種を目標に続けてきました。この「夢境」の両親になった品種は、「先駆者」一九九八年作出。花は立ち弁がV字型厚弁で大きく、最初の花は六英咲きですが、終わり頃に咲く花は立ち弁がV字型に咲く変わり者です。
 また、もう一方の「望」は、2001年の作花で、立ち弁が大きく直立する性質があります。このニ種の交配によって出現したのが「夢境」です。「夢境」は、立ち弁が大きくまた厚く、雨にも強いのが特徴です。
 これらの品種の元親になった品種は、園芸種の三英、六英、また道東産の三分枝咲きノハナショウブなどを交配した品種から選抜してゆきました。
 毎年花が咲きますが、次の親に使える個体は1〜0%程度しか出現しません。2005年はラッキーな年になり、「夢境」と百合咲きの実生から出現した「Vサイン」、このニ種が生まれ、このニ種を交配することにより、ジャーマンアイリスにより近い花菖蒲の作出が可能になってきました。
 また「夢境」は、「世界のアイリス」の表紙に載っているジャーマンアイリスの、エンタングルドの花型にするには、かなり近づいたものと思っております。