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 花菖蒲に新しい活躍の場を

    理事長  椎野 昌宏

 住環境の整備と充実が今世紀の日本の課題といわれます。
地球の温暖化のもたらす世界の環境破壊の進行やヒートアイランド現象による都市居住者への不快感の増大と健康面への悪影響など克服すべき課題がたくさんあります。
 住環境には、交通、医療、教育、ショッピング、自然の五つの面がありますが、そのうち特に自然の環境整備が重要です。美しい町並みを作るため地域の人々の意識改革と協力が必要です。
 都会に緑のオアシスをというスローガンを掲げて、東京都では平成一二年に都市部が高温となるヒートアイランド現象を和らげるため、自然保護条例を改正し、新築される敷地1,000平方メートル以上のビル(公共施設は250平方メートル以上)などに対し、屋上面積の二割以上の緑化を義務付けました。都は平成15年度までに1,200ヘクタールの緑化を見込んでいます。このプロジェクトに我が花菖蒲も参加できないかと思います。

 協会の小林昇理事は自宅ビルの四階のベランダと屋上の80平方メーター位のスペースでびっしりと花菖蒲の鉢を置き育てています。そのでき栄えはまことに見事でいつも賞賛の的になっています。
 屋上栽培の利点は採光や風通しの良いこと、平地に比べて雑草があまり繁茂せず病害虫が少ない点にあります。地植え方式の菖蒲園とするためには、軽量土壌を使用すること、荷揚などの運搬に手間がかかること、給排水整備をすることなどのコストアップ要因もありますが、大阪などでは、屋上緑化を行うビルのオーナーに対して市が植栽費用の五0%を助成する制度もあります。
 今後は都心部の民間分譲の大型マンション屋上にも植栽が色々な形で登場することでしょう。屋上緑化を行うことにより、室内の断熱保温効果が高くなって冷暖房費が軽減され、くつろぎの場が広がり、ヒートアイランド現象の緩和が期待できます。花菖蒲もその植栽候補となり得ると思います。

 次にインドアー・プランツとしての花菖蒲栽培の試みです。山脇信正氏が庭で育てた花菖蒲の鉢を12月に室内に取り入れ育てて、翌年の3月中ごろに開花させる早咲き花菖蒲の研究を熱心に行っています。この栽培技術が認知され普及すれば、インドアー・プランツとして一般に苗を分譲し、育てる楽しさを味わって貰えるでしょう。

 最近の傾向として、花菖蒲は自分で栽培するよりは、花菖蒲園に行って観賞する植物だと考える人が増えています。もちろん華麗な美しさを見せてくれる場として花菖蒲園の存在は重要ですが、いかなる方式でも自分自身で栽培する花菖蒲人口が増えなければ、伝統園芸植物としての未来は開けません。新しい品種の改良も、優秀な品種の保存も、まずこの花が好きで育ててみたいと思う人が一人でも多く現れなければはじまりません。
 その意味からも、屋上やインドアで栽培するという方法は、この花の未来を見据えた新しい活躍の場を与える栽培方法として重要です。また、スペースを緑で埋める領域が広がれば、地球温暖化の抑止に貢献する一員が増えることにもなります。

 この会報が、これからの花菖蒲に取り組む皆様に、少しでもご参考になれば幸いです。