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 広島市植物公園の花菖蒲園

       廿日市市 三輪 昇     

 私が広島市植物公園のボランティアとして同園に通い始めたのは、平成十三年四月です。入園者のガイドをする人、ガイドのためのテキスト作りに携わるチーム、球根類等の季節ごとの花々の植付けのヘルプ等々に数多くの作業がボランティアの人たちの手で行われています。

 広島市植物公園は、広島と宮島の中ほど、広島市佐伯区倉重の瀬戸内海を望む高台に位置し、18.3ヘクタールの園内には、大温室をはじめサボテン温室、熱帯スイレン温室、ベゴニア温室、フクシア温室などの温室のほか、日本庭園、バラ園、ツバキ園、ロックガーデン、常緑樹、落葉樹、針葉樹ほか多くの樹林観察園などを設け、約一万一千四百種、二十三万四千本の植物を植栽しています。

 この植物公園は、植物の観察と植物と植物とふれあう憩いの場として多くの市民に親しまれていますが、多種多様の植物解説はラベルが中心となっており、入園者に対する植物の用途や特性、文化などさらに詳しい解説には一般市民から公募したボランティア活動に負うところが大となっております。

 私自身は植物に関する知識はまだ素人同然でしたから、まずは自分の勉強という意味も兼ねて、テキスト作りのチームに入れていただき、実に多彩な知識の持ち主である先輩諸氏に教わりながらのスタートでした。
 幸い私に出来ることの一つとして、花菖蒲が好きで自分で育てており、多少なりとも知識は持ち合わせていましたから、同園の日本庭園に小さな規模ながら花菖蒲園がありましたので、まずはこの花菖蒲園についての解説書を作ること、全ての品種の写真を撮り、その品種について特徴などを記したカタログを作ろうという命題を受け持つことになりました。

 この花菖蒲園は二十年前に開設され、東京の小石川植物園の協力を得て品種を導入した経緯があり、「宇 宙」、「仙女の洞」、「鶴鵲楼」、「鶴の毛衣」などをはじめとして、江戸系品種を主体に、肥後系、伊勢系も含めおよそ七十五品種、他にノハナショウブ、カキツバタなどが植栽されていました。

 私の自宅から車で十五分という近さにあるこの植物公園に、順々に咲き続け変化し続けてゆく花菖蒲の最も美しいときの姿を、それぞれ記録に残したいと思い、五月下旬より六月下旬まで、ほとんど連日のように通い続けました。

早咲きの「文吾の輝」、「初 鏡」、「日の出鶴」、「早苗錦」など次々にカメラに収め、私の最も期待していた「宇 宙」がやっと最後に花を見せてくれたのが六月十八日でした。

 全ての品種のカラー写真とともに、花菖蒲の簡単な歴史、解説などを付け加えて出来上がったガイドテキスト原稿を、昨年の六月十一日に大船植物園の協会展示会の会場に持参し、図々しくも三池延和先生にご鑑定をお願いしました。

 永い年月の間には、株分け植え替え作業時の名札の取り違い、紛失などによる品種の混乱は、どこでも起こり得ます。まして業者に委託した場合、とかくこの危険は大きくなります。堀切でもやはり業者の質に問題のあることが多いと聞きました。
例にもれず広島でもこの問題が起きておりました。三池先生の検証の結果、明らかな間違いの点、疑問点のご指導をいただき、その結果を持ち帰って、さっそく植物公園に連絡致しました。

 昨年の開花後の株分け作業は、業者に任せず同園栽培課の担当である在岡孝行氏が、炎天下にもかかわらずご自身でショベルを振るわれて、株分け植え替え作業を行われ、指摘された疑わしいもの、間違いのものは全て排除し、新品種も取り入れて名札も完備しました。合計七十七品種、七千株の小規模ながら品種的には正確な花菖蒲園ができあがり、今年のシーズンが楽しみです。

 ボランティアとしての私の初仕事が、このように受け入れてもらえたのは、たいへん喜ばしいことです。図々しくも原稿を持ち込んだ私に、真剣にアドバイスをしていただいた三池先生には、心から御礼申し上げる次第です。