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 群生させて楽しむ花菖蒲の浅鉢盆養

                       東京都 小林 昇


小林さんの展示会のテント前で
 都会では味わえない花菖蒲園の風情 を、一握りの土を生かして盆養作りで 楽しみましょう。一年の丹精が、立体感 あふれる絵となって答えてくれます。 是非、鉢作りの一に加えて楽しんで頂ければ幸いです。尚、この花菖蒲の盆養栽培については、協会の六十周年記念号にも書きましたので、参考にして下さい。
1 品種選び
 どの品種でも盆養栽培が出来なくは ないのですが、野趣豊かに作るには、肥後系のような極大輪花よりも、江戸系 や伊勢系、または原種系の品種の中から、群生して咲くと美しい中小輪で細葉・立葉性の品種を選びます。参考までに盆養に向くと思われる品種を挙げますが、これらに限らず色々試されると良いと思います。
 五三の宝・五三白・八重五三・湖水 の色・江戸系不知 火・蘇峰・泉川・蛇 の目傘・十二単衣・千歳・五月晴・白天女・群山の雪・水玉 星・神代の昔・唐アヤメ・長井小紫・長井秀峰・長井麗人・小桜姫・爪紅・藤陰・美吉野・清少納言・丹幽・野花菖蒲・縞菖蒲等。
 特に 「湖水の色」は花付きもよ く、立葉・細葉性で、開花三日日の花が萎む前のわず かな時間、薄い花弁が丁度こよりを巻き込んでいくよ うな姿を見せた時は、覆輪花にも似た何とも言えない 美しさがあり、群がってたくさん咲くと青白く輝いて見え、盆養のため に作出されたのではないかと思って しまうほどです。
2 苗選び
 なるべく細い苗を用意します。この ためにも前述したような元々細身の品種を選ばれると、スムーズに植え付る ことが出来ます。また前の年に浅めの鉢に植えつけ一年間栽培すると、細い良い苗が得られます。
 苗は葉を10〜15センチ位に切り詰め、根も太い根のみを残し短く切りバランスを取ります。この時、振れのあ る苗やメイチユウが入っているものは外し、植え付けた苗が枯れた場合に備え五〜六本程度の補充用の苗を、三寸位のポットに植え付けておけば万全です。
3 鉢
 盆栽用の浅鉢や水盤、アクリル製のお盆、洋皿・石皿・手水鉢など、浅い 鉢なら何でも結構ですが、深さが四セン チ以上あるような鉢ですと草が徒長してしまいますので、それ以下の浅鉢を使用 します。また底穴のある鉢は、ガムテープで両側 から塞ぎます。これは根がそこから外へ出たり、鉢の中へ余分な水が入って来て、草丈が徒長するのを防ぐためです。 そしてかわりに貼り付けたガムテープに小さな穴を開けておきます。こうするこ とで水はけも良く、草丈を低くするの にも役立ちます。
4 用土と植え付け法
 まず六月下旬に、二寸ポットに浅く仮植します。この時は肥料気の無い小粒の赤玉土で植え付け、括れることを考えて多めに作ります。また、この時苗の表裏が判るように印をつけておくと便利です。  そして新根が伸び始めた一カ月後、 ポットから浅鉢に本植します。この時期ですと、多少の雨風にも倒れなくな ります。苗の表を鉢の中心に向け、花が確実にほしい所には良く育った苗を選 び、込み合わないよう配置してゆきます。
 本植の用土は通気性の良い、保水力 のある肥沃な土を調合します。私の場 合は、荒木田土七割、山砂二割、堆肥・ ビートモス一割、油粕少々を混ぜたも のを使っています。 一鉢に植え付ける本数は、三十センチの炮烙で十五から二十本、四十セン チ位の楕円型の浅鉢で二十本から三十 本位です。太めの苗は中心部に配置し、 苗をしっかり植え付けるには、荒木田 を細かく砕き乾かしておいたものと、 水をヒタヒタにして泥状にしたものを用意し、これに根を交互につけ、根を荒 木田の団子で包み、これを浅鉢に仕立 ててゆきます。
  参考のため、植え付けの要領を図示 しましたが、肝心なことは鉢の中心に 苗の表を向ける事です。こうしないと 花時に花茎が交差したり、葉芽が入り 交わったりして風趣を損ないますので 充分注意してください。  苗を植え終わったら前述した用土を 振り込みます。二〜三センチかぶせ、出来れば中央を凹ませて水持ちを良くし ます。底孔のある鉢は底から水を吸わせ、ない鉢は静かに水やりし、二〜三日間は日陰に置いて表土がヒビ割れする まで土を乾かし固定させ、苗の活着を はかります。
5 肥料とその後の管理
 本植と同時に度々薄い液肥を与え、 九月から十一月にかけては油粕と骨粉 で出来た固形肥料を砕き、これを鉢の表面に蒔いて十分に肥やします。十一 月末頃になり株元が丸くコロコロとふくらんで来ればしめたものです。
 また 反った苗は根起しして整え、鉢も時々 回転させ、まんべん無く日が当るよう にします。
 休眠期に入ったら枯葉を刈り、地域によってはシートやワラ等で防寒し、発芽を遅らせるため、寒い建物の北側 などで越冬させます。
 春先になって発芽してきたら、直ち に日当たりの良い所へ出します。これ からの水やりは、土が乾いたら与えるを守り、控え目にするのが株の伸長を押さえるコツで、上手に出来ると二十 〜三十センチの草丈で花が見られます。
 開花までの肥料は、春先に二〜三回 窒素分の多い液肥を与え、その後は打ち切ります。また、姿を整えるため四月下旬に芽かきをして、株が混み過ぎる のを防ぎ開花を待ちます。
 数年前に催した野外テントの展示会 に寄せられた詩を紹介します。
  蝶ひとつ ふと吹き上げぬ 花菖蒲                  染谷宏
  研競う 菖蒲の花に 酔いしれて 心なごむや 梅雨の一日   毛利伸吉
  たくさんきれいな花がたくさんあった。どうしても一りんほしい。   小学二年生 王子菜摘子