伊勢ハナショウフの特徴(抄)
田中 信一
私は、伊勢ハナショウブの古花の蒐集に努め、古花を六〇種栽培している が、新花も古花と同じくらい作ってい る。 これらの花をつぶさに観察し、先人 たちの資料も参考にし、伊勢ハナショ ウブの特徴を次のようにまとめた。
一 花は三英咲きで、外花被は縮緬地 の薄弁で、大きく発達し、互いに深 く重なりあって、花被片のすき間をつくらない。
ゆるやかに垂れ下がって、そのようすによって、富士型、地蔵肩型、怒肩型にわけられる。
伊勢ハナショウブは三英咲きを基準としているが、一九五二〜一九六〇年ごろ、富野耕治は伊勢系の古花「乙女」の実生から 六英咲きの「桜獅子」
を、肥後系との交配から六英咲きの 「白獅子」「若獅子」を、前田七郎が「冠獅子」「紫獅子」を作出して
いる。しかし、これらの品種はあまり普及していないようである。
二 内花被は小さくて、丸みを帯びたもの、やや尖ったものがあり、わずかに垂れるものもあるが、殆ど立ちあがる。これを「鉾」と呼んでいる。
三 雌しべの先端が鶏冠状に立ちあが り、しまりのないしべくずれがない。 芯の先端が鋸の歯のように切れ込ん でいるもの
を、伊勢系では「蜘蛛手」 といい、これの繊細なものを上花と している。
四 花色は純粋で、明るいものが多いが、これといった花色の特徴はない。
五 花茎は太くて短く分岐しないもの が多い。分岐するものも多少あるが、染色体が異数体の品種は分岐しない。
六 草丈は高性のものが少なく、葉と 花茎は殆ど同じ高さで、開花期に花
と葉のバランスがよくとれている。
花茎が抜き出て高いものは少ないが、 古花ですばらしい花を持つ「白雲」 「桂男」 「紅孔雀」などは、高性であ る。
七 葉の質は勢よく直上的にのびる硬 質のものが多く、時々葉折れを生ず ることがあり、またなかには葉のややしだれる
軟質のものもある。
八 ハナショウプの染色体は2n=24 であるが、伊勢ハナショウプの古花 の中には2n=25という異数体の品
種がある。
これらは不稔性が強く品種改良に はあまり適しているとは言えないが、
全品種すばらしい名花で、松阪の先人たちが
、単なる経験だけを頼りに交配を重ね、淘汰育成していくうち に出来上がって来た、他の系統には
無い伊勢系独特の特
徴である。 |